ものこと双発学会 趣意書

 

 新興国市場をはじめとするグローバル市場への展開においては,製品単体の売り込みよりも,サービス,事業運営などを一体としたビジネスモデルの提案力が問われている。個別製品を巡る価格競争が厳しさを増す中,総合的な事業提案,サービス提案を行い,市場の需要を喚起する,あるいは市場のニーズに応えるという方向性が追求される必要があるのだ。その中では,製品は総合的な提案の一要素としての位置づけとなる。グローバル市場において日本産業が再び勢いを取り戻すためには,徹底してマーケット視点に立ち,多様化する市場のなかで顧客にとって真の価値を提供するための“ものづくり”・“品質づくり”・“ビジネス(ストーリー・戦略・企画)づくり”をいま一度見直す必要がある。このため,本学会は,クラウドソーシング・グローバル化・サービス化・ソーシャル化などにつき広く産官学に亘る実務家や多種多様な学識経験者が領域を超えて広く交流し,新たな知を切り拓くための開かれた真理の探究の場となることを志向する。日本の科学と技術により,産業・経済を力強く再生し,活性化させて,日本の産業をものづくりによる一本足打法からもの・ことづくりの双発エンジンへと転換するために末永く寄与,貢献していくことが,本学会の目的である。

 デジタル情報化技術(ICT)の普及により一般市場のサービス産業化は目に見えて進んでいる。消費の傾向も,例えばSaaS・PaaS・スマートフォンの台頭に象徴されるように,「モノ」それ自体よりも「モノの利用に付随する付加価値(ベネフィット)」を享受することに重きが置かれていると捉えることができる。消費者のニーズは多様化し,物質的な満足から体験的経験的な充足感までもが需要の根源となってきた。

 一方で,産業界に目を向けると,Open Innovationの必要性が叫ばれてはや10年になるが,この間には,ICTがすさまじい速度で進歩普及し,日本産業のこれまでのビジネスモデル,すなわち品質・コスト・大量供給という仕組みから抜け出た,新たな仕組みあるいは価値提案をする企業が世界で台頭している。これに対し,わが国産業は,ICTによるグローバルなビジネス展開の波に乗りきれておらず,新たな暮らし,ビジネスのあり方を提案するというよりは,他国が切り拓くICTインフラを部分的に享受する“ものづくり”に留まっている面が大きい。成長著しい新興国市場に浸透するに当たって,未だ,従来機能していた「世界同一品質のモノの輸出」という行動パターンが支配的であり,モノとサービスを融合させたグローバルなビジネス展開の構築に至っていない。しかしながら,現在では,ICTの進行により有形/無形のベネフィットが混在して生産・提供されており,もはや製造業者とサービス事業者の境界は曖昧で不明瞭である。多様化する消費者のニーズには,モノまたはサービスそれ単体の議論では応えられなくなってきているのだ。新しいサービスを届けるには新しいモノが必要となり,また新しいモノには新しいサービスが必要となる。提供するベネフィットの性質が異なるモノとサービスによる協働,あるいは多くの事業者同士が協働するスキームについて様々な角度から研究ないし提案がなされれば,そのかけ算で多様な価値が新たに創造され得る。”もの”の所有から”こと”の利用への転換について,日本の産業形態に適応可能な実学としての議論が必要である。

 さらに,ICTの発達は,事業者と消費者の“距離感”を大きく変えた。これが進めば,モノとサービスとの協働に,さらに消費者からの価値の循環を上手く取り込んだ三者間の価値形成が実現されるだろう。消費者にとって新規で多様な価値創造を行うためには,オープンなプラットフォームを通じた価値形成に関して,”もの”の所有から”こと”の利用の次の局面,すなわち消費者の役割変化についても更なる議論が必要となってくる。

 本学会は,こうした変容する事業環境のなかで,わが国の産業・経済の活性化に寄与するために,”もの”と”こと”の協働を力強く推進するための議論と研究の場,そして実践の基盤づくりにかかる活動を進めるために設立するものである。

2014年4月1日
設立世話人会・賛同者一同